江戸時代から続く老舗
三奥屋

お話を伺った近社長。漬物から県内文化までとその造詣は深い。
「元禄初期にできた建物なんですが、内部を改装して事務所として使っているんですよ。」
というのは三奥屋さんの事務所のこと。最近ではほとんど見かけなくなった茅葺き屋根が数日前から降り続いた雪に白く覆われ、風情を感じさせます。
「この場所は最上川の最終の船着場でしたので、物資や人々が行き来する賑わいのある街でした。旅篭や料理屋、廻船問屋などが建ち並ぶ通りだったので、戦前は農業や商業、漬物だけでなく醤油や味噌を作ったりもしていたようです。漬物を専業としたのは戦後からですね。それからは、晩菊をはじめとした商品の数々を生み出してきました。あまり知られていないのですが、仙台で牛タンを食べる時に付いてくる南蛮味噌、あれは三奥屋が元祖なんですよ。」
知らず知らずに食べていたものが、実は三奥屋さんが作った商品だったとは驚きです。
漬物を通して伝える、
山形の食文化。
「山形県漬物協同組合(※)では、高校生や中学生を対象とした漬物出張授業を行い、学生らに山形の漬物、山形の食文化について教えています。生きているうちは食べなければいけないんだから、味覚を成長させたほうがいいよ、ということを伝えているんです。」
「味がわからない人生なんてつまらないじゃないですか。それに、山形は食の質の高さ、その中でも漬物文化の質の高さが自慢なんですよ。漬物でなくてもご飯のおかずはあるけれど、必ずといっていいほど食卓に漬物はのぼりますよね。これは母親の愛情に他なりません。」
「料理はその場で味が分かるから調節できるけど、漬物は最低でも1日おかなくては味がわからない。粕漬けのように1年後にならないと味がわからないものだってあります。だからこそおいしくするために何度も手をかけるんです。手間がかかるからこそ、そこに愛情があるんです。それを大事にしている山形の文化というものを、学生たちにきちんと知って欲しいですね。」
そう語る近さんの、山形の食文化を広く伝えようとする熱い姿勢は三奥屋の商品にも表れています。
※山形県漬物協同組合:
県産漬物の需要拡大と組合員の製造技術の向上を目的とし、山形県の漬物の名声を広く全国に広めながら、将来に向けて成長発展をはかっている。代表は、山形県漬物協同組合理事長でもある近さんが務めている。
素材、塩、工程 ― 。
こだわりが生み出す独自の味。
人の手により一つひとつ丁寧に仕上げられていきます。
「通常で30種類の漬物が毎日作られています。おみ漬け、青菜などは、塩漬け原料は使わずにすべて生の食材を使っています。」
というのは工場長の星さん。
「晩菊は樽に漬けて1年、長いものでは2年の熟成期間を必要とします。熟成がものをいうのが漬物ですから、日々の管理が重要になってきます。もちろん、1年後に開けてみたらダメだったということもありますしね。だからこそ樽の声に耳を傾けて、ひとつひとつを丁寧に作っています。」
もちろん、材料である食材や味の要となる塩にもこだわりが。
「野菜の90パーセントは契約農家の作る国産のものを使用しています。そのうちの6割から7割が山形県産です。また、素材によって塩も変えています。塩にしっかり漬けると、塩枯れといって塩のとげとげしさが取れて、全体に味わいやまろやかさが出てくるんです。だから、野菜によって塩を変えて、長い期間漬け込むことで、三奥屋独自の味を守っています。最近の漬物は新鮮な色合いが好まれて、青い野菜は青いままに出荷されるような時代になってきましたが、ほんとうはじっくり漬け込んだほうがおいしいんですよ。」
工場内部で加工されている晩菊用のナスは独特の茶色味をおび、漬物特有のやさしく懐かしい香りがします。
時を越えて三奥屋を支える
84本の六尺樽
季節を問わず常温で管理されている熟成蔵。
「ここでは江戸中期に作られた樽が現役で使われているんですよ。84本の樽が熟成蔵で今も三奥屋の味を守っています。」
熟成蔵をのぞくと、いくつもの大きな樽が漬物を湛えて静かに眠っています。一つの樽にきゅうりだと約1, 500kgもの量が一度に漬け込まれるそうです。
「樽はいきものだから、水を入れると泡が出てくるんです。呼吸し続けているんですね。」
そう語るのは樽管理を任されている大浦さん。三奥屋のあの味は、大浦さんの細やかな樽の管理から生まれています。
「ここで熟成させたものを、工場に運び、洗浄して、刻んで、塩ぬきして、梅酢とあわせて晩菊が出来上がります。やはりここでうまく漬からないと、おいしい晩菊にはなりませんね。」
とは品質管理の後藤さん。樽を見つめる目に味と品質へのこだわりが感じられます。
「三奥屋の宝でもある六尺樽。全国でもこんなに樽があるのはここだけでしょうね。江戸中期に作られた樽ですので、今同じものを作ろうとしたら、家1軒分とかわらない値段がかかりますよ。」
樽表面のつややかなあめ色は、長い間漬物を守り続けてきた証です。1本1本が節のない正木を使用している樽だからこそ、時代を超えて今でもその役目を果たしています。
原点は
家庭の味

説明下さった御三方。降りしきる雪の中、ありがとうございました。
「青菜漬やおみ漬などの定番商品のほかに、最近では郷土料理である米沢牛の昆布巻きも人気商品なんですよ。」
と話す裏には、山形の食文化の奥深さが伺えます。
「新商品のための社内コンペを開くたびに、驚くほどたくさんの種類の漬物が社員らから提案されるんです。山形にとって、漬物はやっぱり家庭の味なんですよね。それぞれの家庭で代々漬けられてきた背景があるから、どんなものでも漬けるし、それがまたおいしい。」
確かに、県内のスーパーの売り場をのぞくだけでもかなりの数の漬物が売られています。
「漬物というのは、主婦の愛情と技術が生み出す民芸的なものだと思うんです。そんな意味では、私たちの商品は家庭漬けの延長線にあり、この山形という土地の持つ文化の素晴らしさ、風土の素晴らしさで生かされていると感じますね。」
古いもの、歴史あるものを守りながら、山形の食材、山形の文化と真摯に向き合い作られる三奥屋の味。雪深い高畠町の漬物蔵では今日も、愛情いっぱいの漬物が作られています。